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不朽の処女評論(小島 信夫)


 わが友、岡本謙次郎はこの処女長編評論を二十六ぐらいの時に書いた。最初の部分を、当時私のいた岐阜の宿屋の一室で書いていたので、よくのぞきに行って読ませて貰った。評論で傑作というものはどういうものか、よく分らなかったが、そのとき自分の友人が傑作を書いていると察して、それに立ちあっている事実に感動したことをおぼえている。

 岡本の出発となったこの評論は日本の戦後の出発ともなったのだ、と私はひそかにくりかえし思っていたものだ。多くの戦後の作品はその価値を半減したが、これは違う。それは、彼が永遠を書いているからだ。私が驚いたのも、当時の私の物の考え方を遥かに超えた地点で物をいっていることを感じたからだったのであろう。

 リアリズムということが、また近頃いわれ出したが、これまた新しい誤解をうむもとみたいなものだ。岡本はその誤解が入りこむ隙のない書き方をしている。

 盲目の琵琶法師の奏でる物語の中から、やがて次の時代の運慶がうまれ出てくる。断念と覚悟が琵琶法師の声に乗り、爪さばきをともなった。そこに著者は思いをこめている。その思いの深さに私は驚いた。それにしても、どうしてあの若さで書けたのか、不思議でならない。


小島信夫書評: テキスト

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