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東大寺三月堂 月光菩薩像
美の美
はじめ三月堂に入ると、中央に立つ不空絹索の張利のある雄大な容姿が堂内一杯にひろがっていて、他の彫像はほとんど眼につかない。が、しばらくして、この大きな立像の横に、まるで脇侍のようにつつましく、幽暗のうちにもの白く微光を発している二つの塑像に気づく。日光、月光であるーそれから、やがて、他の諸像にー。
祈りは人間のもっとも力強い形式であろう。が、日光、月光の強さは不空絹索のような雄大な外見をとらず、つつましい。光を反射する外向的な強さではなく、古い白金のように地味に、いったん光を吸収して珠玉の鼻腔に変えてから、あらためて発光するようだ。
力がこれほど静かな容姿をとっている彫像はまれだろう。思慮と節度とをもって祈っている。この平安なすがたを前にして、ぼくは、孤独な、静寂な時間の中にある幸福という感情を知った思いがする。天平時代の一面を代表する傑作である。
日光、月光という名の由来は不明。おそらく主題の象徴としてつけられた後の名であろう。
(美術評論家・明大助教授)
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