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ルノワール「洗濯女」
美の美
ルノワール (一八四一―一九一九年)は中期にはかなりかたい緑の輪郭をつけていたが、晩年の絵では、人体の輪郭は光の色にとけてゆくかのようにアイマイになる。しかも初期の印象派時代の輪郭のとけ方とは全くちがい、とければとけるほど、人体そのものの根源的な力が大きく、強くあらわれてくる。これは晩年、彫刻をつくりはじめたことと結びついている。
この彫刻は一九一七年の作。生命力の充実したモニュメンタルな大きさを感じさせる。むろん、充実しているのは洗濯女ではなく作者の方だ。もっと正確にいえば、老年であらゆる病気になやまされ「二本の松葉杖にひっかかったボロ切れ」みたいな身で、その生命力を作品の力に転換している。幸福とはこういう生命の充実感のことなのだ。 絵画では、彼は人体の輪郭をとけるがままにまかせた、一種のノンシュランスがあるかに見えるが、それも実は、こうした本格的な造形の確かさと幸福に支えられていた。
(美術評論家・明大助教授)
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