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ルオー「郊外のクリスト」

美の美

 ルオーは若いころは「罪の咬傷」とみずからいう人間のあさましさ、おそろしさに、のたうつような線や色をつかっていたが、「郊外のクリスト」(一九二〇年)のころになると、暗澹(あんたん) としたものは次第にとれてくる。かつて道化、罪人、しょう婦などをむちうつように怒り狂った線や色は、幅のひろい、無限のさびしみをもった、静かな和音のような透明感をもってくる。その透明感に、幸福と力強さとがとぎだされる。たぶん、このことは、ルオーがようやくイエスをかけるようになったことと必然的に結びついている。
 ルオーは、おそらく人生のはじめからイエスのことを考えていたのだが、信ずることの強いほどイエスを描くことが容易でなかったのである。ことに幼児とともにあるクリスト、「汝らつつしみてこの小さき者の一人をも侮るな」といったイエスを描くことは、ルオーのようにクリストを信ずるものにとって、至難のわざだったにちがいない。とにかくこの絵は悲劇性と幸福感とを同時にぼくたちに教えてくれる。
(美術評論家・明大助教授)

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