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ルオー「聖ヴェロニック」

美の美

 ルオー(一八七一ー)のかく人物はどこの誰というわけではなく、いわば作者の心像の明証である。だから、娼婦を聖女にすることも、またその逆も可能である。むろん、その場合そこには大きな必然性が通っている。
 聖ヴェロニックという名の持主は虚実とりまぜて数人あるはず。第一に礫(はりつけ)の地にむかうクリストの顔の汗をふいたという女の名、実在の人物では十五世紀後半イタリアの修道女で峻厳な修行と黙示で有名だった聖女。十七、八世紀のころ、スペインにも同名の聖女がいる。そしてルオーと親交の厚かった熱烈なカトリック作家でプロワの自伝的小説「絶望者」の中で、娼婦から聖女に変身する主要人物が同名である。ほかにもあるかもしれぬ。 どのヴェロニックか説明をきかぬと分らぬが、しかし、たぶん、これらのヴェロニックたちがルオーの心のうちに一体化した存在となっているのだろう。要するに聖女である。ほおのあたりの長ひいのはルオーのかく聖者の一つの特色である。
(明大助教授・美術評論家)

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