top of page
ヤン・ファン・アイク「アルノルフィニ夫妻の婚礼」
美の美
ヤン・ファン・アイクは十四世紀末ごろに生まれ、一四四一年に没したフランドルの画家。古典に通じ、幾何学や化学の研究もしたといわれるが透視図法の追究、油彩画の「発明」、構成の緊密感などによって、作品を一つの独立した世界として創造していることからも、それはじゅうぶんうかがえる。
新婚の夫は左手で妻の右手をとり、右手をあげて、まるで誓いをしているようだ。こまごました家具が一点一画ゆるがせにせずに克明にかかれているが、それが、この敬虔(けいけん)な世界の創造に参加している。作者は視点を固定して、秩序を求めていたと思われる。
背後の鏡にこちらの世界がうつって奥行きをしめしている。こうした鏡の利用は透視図法を追究した人々のよく用いたものだが、ヤンの場合は現世的な空間のひろがりというより、世俗の人々を描き、現世の事物をあつかいながら一種の宗教的ふいんきをかもしだしている。それがなんともえたいの知れぬ無気味さをぼくに感じさせる。どうしてもなじめない異様なものを感じるのだが、また、実はそこがぼくを奇妙にひきつけるのである。
(美術評論家・明大教授)
bottom of page