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マチス「ジャンネット」
美の美
マチス(一八六九―一九五四年)のデッサンのすぐれたことはいまさらいうまでもないことかもしれぬが、念のためにいえば、単純と思われやすい、あの線描で人体の厚みを掛値なしにとらえている。目に見えぬ裏側をも内部の質をも表現している。これは彫刻というゴマカシのきかぬ物で訓練した線にちがいない。流暢(りゅうちょう)とというものでもない。 若いころの線はそれ自体が物語を語り、歌を歌っていたが、彫刻にぶつかることによって、その自由をため、物が作者の解釈のきかぬものとして存在するその空間の厚みをまるごととらえるにいたる。
言いかえれば、自分の流暢さと和解しがたくなるまで、外部の物の力を感じるにいたったのだ。マチスの絵の色彩の豊かさの中にある底冷えするような冷たさは、物の裏側まで見きわめてしまったものの冷厳さでもあろう。彫刻は作者と世界とを結びつける、もっとも厳格な立会人である。
(美術評論家・明大助教授)
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