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ボッシュ「嘲弄されるキリスト」
美の美
イエロニムス・ボッシュは南オランダに生まれ、一五一六年に没した。中世以来、南ドイツの庶民の間に根深くうけ継がれた怪奇な幻想的イメージを極度に推し進めて、悪魔的な幻想絵画を描いている。
南ドイツの悪魔趣味……たとえば、聖者がさまざまな悪魔の誘惑をうける試練の図の場合、聖者は図式にしたがって形式的であるのに対して、悪魔どもはまことにいきいきとしている、というような例によくぶつかる。そうした悪魔を描くたのしみが黙認されたとき、ボッシュのとった方法は、悪魔のみにくさをとことんまでつきつめていくことだった。彼の場合、悪魔とは妖怪変化(ようかいへんげ)ではなく、人間の情念のうちにある無意識の残忍さであった。
左側からキリストをあざける老人は老醜の権化(ごんげ)みたいだ。衣をはぎとろうとする人物、茨の冠をかぶせようとする若者、右手をキリストの肩にかけてのぞきこむ人間………これが人間ならばはたして人間とはいったい何なのか………嘲弄(ちょうろう)、軽蔑(けいべつ)、残忍ということがどういうものかを、おそろしいほど伝えている。
こうした悪をひとごとでなく描いているのがボッシュである。
(明大教授・美術評論家)
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