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ホガース「えび売りの娘」

美の美

 野方図で壮大な笑いがある。怒りや憎しみも、その笑いにまきこまれると、それなりに位置づけられ、限定されてしまう。日常的な善意はけしとぶ。ホガース(一六九七―一七六四年)の風刺画もそのたぐいである。たくましい人間通のゆとり、本格的なユーモア、何ものにもとらわれぬ精神の自由がある。
 ウィリアム・ホガースは風刺画家といわれ、イギリス絵国の父などといわれる。が、「えび売りの娘」はむろん風刺画ではない。ありふれた一人の庶民の娘の肖像である。 決してきれいな容姿ではない。が、それだけに、作者がこの娘にそそいでいる愛情のきびしさと美しさを前にして、ほくたちは思わず襟を正す。これは甘えたがる心情を強引に拒否する男性の雄々しい愛だ。人は自分自身気づかずに内密な追従を自分に向かって犯しているものだが、そんなナレアイを断固としてしりぞけた一個の人間の、その拒絶の間から、わずかに、微妙な律動となって本格的な愛がよみがえる。それが絵の生気というもの、いわゆる「底光り」ということだろう。
(明大助教授・美術評論家)

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