top of page
< Back

ヘンリ・ムア「聖母子」

美の美

 彫刻は鑑賞のむずかしい芸術だとムア(一八九八年)はいっている。むろん、第一番に鑑賞するのは作者だと承知の上でいっているわけだ。この場合、むずかしさとは、事物が存在するおそろしさと言い変えてもいい。人間は対象となる事物との距離を測定し、かたちを与え、名をつけると、やっと安心する。つまり、一人間の手のとどくものにするわけだ。が、事物はそう簡単に人間の手におえるものではない、という自覚からムアの彫刻は出発する。
 最近世界の美術界で彫刻が大きな力を示しているのは、ルネサンス以後十九世紀までの合理主義で測定されていた距離がアイマイになったという意識と結びついている。距離がアイマイになれば、かたちは既成の概念をこえ、事物の生命は名称をこえる。 ムアは、石そのものの中に、生命を見ようとする。「生命的」という言葉をムアはよくつかうが、プリミティヴな民衆の生きる強さを認めるからだ。「聖母子」でも、その強さはうかがえる。
(美術評論家・明大助教授)

©2020 by 気まぐれ散歩道。Wix.com で作成されました。

bottom of page