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ヘンリ・ムア「盾をもつ戦士」

美の美

 彫刻は第一に、そこにあるだけで、まず、ぼくたちの視界を妨害する。彫刻では気のきいたものが凡作になるのはそのためだ。気のきいたものは、見通しをつけようとするぼくたちの心情を妨害せず、うまくつかまえ、なだめ、和解し、たくみに誘導してゆくが、彫刻の美しさは、そんなたくみさを拒絶するところからはじまる。
 ムアは、対象を自分の見通しの中にくみいれず、 逆に対象は自分ではどうしようもないものとして、自己を事物の中に分散させ、事物の諸関係をたたみこんでゆくようなやり方をとっている。
 いわば、基礎のところから少しずつつみかさねてゆくーあるいは、わかり切ったようなはじめのものから順々につみ重ねてゆく。が、この諸関係が明確になればなるほど、最初にわかり切ったように思えたものが、実はそう簡単にわかるものではなく、実は非常に重要なものだということがわかってくるようなやり方である。
 一つ一つの事実をゆるがせにできぬものとしてつみ重ね、なんの解釈もせず、まして表情をもたせず、ただありしことのみ記述してゆく歴史家の態度と共通するか?
(明大教授・美術評論家)

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