top of page
ヘンリ・ムア「女」
美の美
実に堂々とすわった女体である。余計なものが一つもない。いつかもいったが「山頂から落しても一ヵ所もくだけぬような彫刻」という言葉がある。ぼくは、そういう彫刻作品が好きだ。ムアの作品には、そうした堅牢なものがある。「山があるから登るのだ」と、ある登山家がいったという。ときおり、これは気のきいた言葉としてうけとられるらしいが、そんなものではあるまい。 問われて、答に窮して、やむなく出た言葉だろう。なぜ、彫刻を見るのか、と問われれば、やはり、答に窮してこう答えるより仕方があるまい、―「彫刻がそこにあるから見るのだ」
が、彫刻がそこにある、ということは、そう簡単な、なまやさしいことではない。
作品を存在者たらしめるものは、作者であり、同時に鑑賞者である。鑑賞者に作品を存在させる責任がかかっているのだが、その責任を鑑賞者がよろこんで積極的にひきうけるだけの力を、作品がもっていなければならぬということでもある。
(明大教授・美術評論家)
bottom of page