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フランシス・ベーコン「風景の中の人物」

美の美

 フランシス・ベーコン(一九一〇―)は現代イギリス画壇で、特異な位置を占めている。
この作品、なんとも、すさまじい様相を呈している。 荒野か原始林かわからぬ風景の真ん中に、空洞のようなところがあり、そこに人物の一部分がのぞいてみえる。この空洞はかがみのようでもあり、世界の中心のようでもありー無気味なものだ。
 色をおつたえできぬのは残念だが、おだやかで、やさしみのある、 しぶい色調である。 画面に描かれたかたちや筆触から想像すると、トッピなようだが、感情の狂奔をおさえるかのようにしずけさをたたえている。本来残酷な観念と不可分に結びついている超現実的イメージが、やさしみのある色調につつまれている。
 ベーコンは、一時、ベラスケスの「インノセント十世」―あの冷酷で、シニックで、ブルータルな法王の像―にとりつかれたように、そのバリエーションをいくつも描いていたが、そうした衝動がうなずける気がする。
われわれが、ふだん、意識的に顔をそむける恐怖の実体みたいなもの―それは、事物の背後にかくされ、思いがけぬときに、陰微なすがたであらわれるが、それを見てしまったものは、それを見なかった以前の状態にはかえれぬという宿命を負わねばならないのかもしれぬ。
(美術評論家・明大教授) 

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