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ピーター・ブリューゲル「逸楽の国」

美の美

 ピーター・ブリューゲルがこの絵をかいたころ、 ネーデルランドは宗教改革の旗じるしの下にカトリック・スペインと血みどろな独立戦争をしていた。 宗教改革の一つの特徴は、宗教芸術を要求しなかったこと、いや、禁止したことだ(どうもこの辺は、宗教、教訓、道徳、芸術などの混同がおかされているように、ぼくには思えるが)。この絵も宗教画ではない。ボッシュなどと同じく北欧の悪魔的リアリズムの系統をひく愚者の楽園で、うまそうな料理をのせたテーブル、バイでできた屋根、その他、こまかく見ると、まことにこの世ならぬ不思議なものに満ちている。にもかかわらず、すべて日常見知っているもので、ただ、それの置かれた位置が不思議な様相を呈するのだ。
 ブリューゲルは、宗教的不思議で作品をおおうかわりに、現実世界をかくことによって、不思議な世界を身近にしたのだ。だからこそ、いっそう、危機感が暗々裏に身にせまる。木の下に寝ころぶ人物は宗教的罪びとではない。だからこそ、この「逸楽の国」は地獄より恐ろしい。地獄はこの世のほかのどこかにあるのではなく、日常のそれと気づかぬところにあって、ぼくたちは無意識におちこむ。
(明大教授・美術評論家)

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