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ピカソ「静物」
美の美
一九三六年四月十六日の日のある作品。ぼくは、三十年代後半の数年間を、つまり、「ゲルニカ」のかかれたころを、ピカソの最高の時期と思っているのだが、この時期の作品は、これまで、ごくわずかしか発表されていなかった。第二次大戦の前夜、スペインの内乱―ビカソは母国の悲惨な状態に心痛し、病気になり、ときたま気散じに詩作しながら「ゲルニカ」に熱狂的にとりくんだ……と、いままで伝えられてきた。
が、ヒカソに信頼されているD・D・ダンカンという写真家が、数年前、ラ・クルフオルニのピカソの山荘で、ある暗い一室に案内され、そこに三百点余(山荘全体には五百点余)の、未発表の作品が秘蔵されていたという。これによると、三十六年四月二日から五月二日までの一ヵ月間に、少なくとも二、三点の大作が描かれている。
この「静物」はちょうどその中間の日につくられている。感性だけを唯一の羅針盤として生涯を通してきたこの画家が恐ろしい苦悩を秘めて描き、おさえるものはおさえて、ある新鮮なものを表現しているのが痛いほど感じられる。そして、この痛みはやが幸いへとみちびかれることを予想させる。
(明大教授・美術評論家)
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