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ピエロ・デラ・フランチェスカ「キリスト降誕」

美の美

 パリのルーブル美術館で、ぼくのもっとも感動をうけた作品は、レオナルドの「ジョコンダ」だといったのでは、それだけでは話にはなるまいが……要するに、ルーブルで一つだけ作品をあげるとすれば、これ以外にないし、これがあれば、他のものはいらぬというような、はなはだ暴力的なことばがでてくるくらいのものである。
それとほとんど同じようなことが、ロンドンのナショナル・ギャラリーでは、この作品についていえる。
光にみちた、清澄な絵である。
 光といっても、外光ではなく、遍照の光とでもいいたい明るさだし、清澄は、作家の精神の清澄でもある。つまり、すんだ空気、作者の精神の清澄、画面の清らかさ、そうしたものが過不足なく結びついて、定着されている。もっとも清朗な寂(しず) けさのうちに、もっとも悲劇的なものがある。
 テーマはいうまでもない。クリスマス。
 天使たちがはじめてのクリスマス聖歌をうたう。 うたごえがきこえないほどの光―まるで、うた声が光にすいこまれ、とけこんだかのような。
 天使は天使らしき格好をしていない。聖母聖ジョセフも、イエスも、円環をもたぬ。が、それだけ余計に敬慶(けいけん)である。外見上、一般の人間と全くかわらぬすがたをとっていることは、精神の美しさを日常見なれたすがたときびしく区別し、全く別の次元に定着しようとした明断(めいせき) な意識と無縁ではあるまい。
ピエロ・デラ・フランチェスカは十五世紀イタリアの画家である。
(美術評論家)

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