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ナッシュ「冬の海」
美の美
ポール・ナッシュ(一八八九―一九四六年)は性格的には、おだやかなイギリス風景画の伝統をひいているが、画家としての生活は両大戦にはさまれ、近代美術運動のさまざまな揺れに遭遇せざるをえなかった。
抽象主義的な構成と、超現実派的な夢幻性とを追求して、イギリス絵画に一つの新生面をひらいている。第一次大戦中前線でうけた毒ガス傷害のため、後年、大作はほとんどかけなくなったが、水彩、油彩、版画、挿絵など、かなり多方面な活動を示した。
第一次大戦後、海を抽象化しつつ、郷愁的な静けさをもつ絵を連作しているが、この「冬の海」はその最後にくる一つの頂点である。厳粛な絵である。 冬の海のにぶり。 平行線が浪の重疊たるさまをかたちづくる。荒涼とした空間と時間の中で、孤独な感情と無限な感情とが、象徴的な力に統合されている。 郷愁ということが、普通では不可視の太古にまでつきぬけたようなきびしさがある。
(美術評論家・明大助教授)
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