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ティツィアーノ「キリストの埋葬」
美の美
キリストの死をあつかった、ルネサンス期の作品の一つである。盛期のベネチア派の巨匠ティツィアーノはピエロ・デラ・フランチェスカやグリューネワルトとは全くちがって、ここでは人間の感情のうち、ぼくたちにも、すぐわかりいい情緒にみたされている。
情感の豊かさと、光と色の効果とが結びついて、この場景のムードをかもし、見るものを誘いこむ。見るものの感情は、何の抵抗も感じずに、誘われるままに、ひきこまれる。
「暗くなってゆく空、急激にすれゆく日光の光は、悲しみにしずむ人びとのなげきに独特の現実感を与えるー彼らは死んだ救世主をここにおいてゆくという考えにたえられない。が、夕べが夜にならないうちに、墓にいれなければならないのだ。男たちは自分たちに強(し)いてその仕事をおわらせようとし、女たちは、ぐったりした、いたましい身体に最後のわかれの目をむける」(H・W・ジャンソン)
こういうわかりいい解説もここではすなおにうけとれる。そして、それがティツィアーノの、そして彼に代表されるベネチア・ルネサンスの特徴かもしれないし、また限界かもしれない。
(美術評論家・明大教授)
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