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セザンヌ「自画像」

美の美

四十歳ころの作だろう。輪郭がぼくから逃げる」とセザンヌはいった。外部の物の輪郭が逃げることは、自分自身の輪郭が逃げることだ。青年だったら、こういうナゲキはしない。 対象と自己との輪郭がアイマイになることで、自他の通路ができるからだ。「輪郭」を求めれば、それだけ、むこうが逃げてゆく、とは、成年のみが知った深淵にちがいない。「絶対の孤独」を知らされた人間の顔である。
既成の輪をもつかたちがそこにある、ということが我慢ならぬいらだちを感じさせる。 それはいつもひとを「籠絡(ろうらく)」しようとまちかまえているからだ。なかば、それにおびえているのかもしれない「籠絡するものとは決して和解しまいとする。 死とすら和解しない。 和解しないためには、絵画という事実によって、対象を消却しなければならない。二十世紀の成年の秘密を深々と感じさせる、鬼気せまる自画像である。
(美術評論家・明大助教授) 

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