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セザンヌ「木立」
美の美
複製ではわからぬが、水彩の青、紫、褐色などの色のコントラストが、はなはだ精妙なものだろうと推測される(ぼくも複製で見ているので、)推測するより仕方がない)。一八八五―八七年の作といわれる。
孤独に立っている二本の木が、たがいに呼応しあって、ある種のやわらかな情感がただよっていいる。めずらしく、やわらかなフンイキなので、このときはセザンヌの、例の「円、円筒、円錐」といったいわゆる何学的な厳格さがゆるんで、おだやかなメロディーにとけこんだのであろう、と見る意見もあるようだが、ぼくは、かならずしもそうは思わない。
「歌にもならぬ孤独」を知ったセザンヌである。荒涼とした深淵を見てしまった男である。ものの輪郭をとかして、メロディーに流すようなことは、絶対に拒否した人間である。ぼくは、むしろ、こう感じる――このやわらかさは、いわば、あらゆるものの輪郭を消却していって、これだけは残ったというような、人間のはだのあたたかみのようなものではあるまいか?
(美術評論家・明大教授)
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