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ゴッホ「自画像」
美の美
背景の、自分を切りつけるような、激しく、かつ、沈替した筆触。冷い青と温い紫とが不思議に交錯しつつ、すごい速さで円をえがいて流動する。 その円環を、まるで聖者の光背のようにして、その中心の深淵から、こちらにせまってくる姿は透明だ。痩(や)せさらばえていびつな顔。苦痛にたえてちぐはぐになった両眼。 この目はなにを見ているのか?可視的なものではない。何かを見ているのではなく、すべてを一単位存在として凝視している、この顔をゴッホ自身は狂人の顔という。
だが、あえてたとえれば犯罪者の顔だ。死刑囚――わとわが身に死刑を科した「死刑囚にして死刑執行人」。ガッシェはこれを殉教の域に達した信仰と呼んだ。だが、「人間の顔を星のように神秘的にかがやかせる」といったゴッホ自身の言葉の意味は、もっと深長である。聖者の頭に輝く光背が卒爾(そつじ)にかかれたものでないように、この人間存在の深淵を見つめる顔をとりまいて流動する円環も卒爾ではない。
(美術評論家・明大助教授)
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