top of page
< Back

クレー「蛇神とその敵」

美の美

 「芸術家は木の幹のようなものだ……木はその根に似せて花冠をつくりはしない……芸術家の位置はつつましい。花冠の美は芸術家自身のものではない。芸術家はただ通路にすぎぬ……」とクレー(一八七九―一九四〇年)はいっている。
 木は大地に深く入った根から養分を吸収して花に与え、その根が養分を求て暗中模索する苦闘やその養分を花に送る手だては人知れず行われ、花にはあらわさない。これは、おそらく芸術家の守るべき最初の、そして最後の礼節である。花によってのみ木は蜜蜂と交わって繁り、蜜蜂にはじ色の蜜をつくらせる。芸術家は作品によってのみ他人と交って存在し、他人を創造に参加させる。もっとも美しいところで交るのが生命の豊かさのしるしであろうし、そこにおいてでなければ交ってはならぬとする決意が誠実であり、また
自信であろう。
 クレーの作品が花とちがうところは、木は花を見ないが、クレーの作品を見るものは第一にクレー自身だということ、つまり人間の意志と行為の有無ということだ。
(明大助教授・美術評論家)

©2020 by 気まぐれ散歩道。Wix.com で作成されました。

bottom of page