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クレー「ドラマー(鼓手)」
美の美
この作品は一九四〇年、クレーの没年の作である。題名はどうでもいいことだろう。彼自身がバイオリンの名手で音楽的天分をもっていたとしても、彼の本領は画家である。
本格的な透視図法と色遠近法の追究、メルヘンのたのしい遊戯性、とことんまでつきつめた怪奇な幻想、文字という抽象的形態を有機的に結合させる魔術―等々の果てに生まれた単純性である。
微妙なニュアンスのはだざわりをもつ白の上に、赤と朱をおき、その上に黒をカリグラフィックにつかっている。右上隅の署名も、東洋画や日本画と同じような、それ自体の意義をもっている。
もし、この作品に不審をいだいたら、ちょっと日本の、あるいは中国の「書」を考えていただきたい。文字の意味はわからなくても、いい字、悪い字、すぐれた書、拙劣な書を感じとる感覚を、多くの日本人はもっている。それどころか、書が、それをかいた人の全人格的なものをあらわしてしまうということさえ知っている。その感覚で、この作品を類推することからはじめても、たいして見当はずれにはなるまい。そして、いわゆる「書」との違いに気づいたら、そこにまた別の楽しみもわくことだろう。
(美術評論家)
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