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「広目天の夜叉」(法隆寺金堂)

美の美

 法隆寺金堂の須弥壇の四隅にひっそりと立つ四天王――これは現存の四天王中最古の作例として有名だが、この四天王にふまれている夜叉はまた一段とおもしろい。牛頭馬頭みたいな面貌で、歯をむき出し、はいつくばって、ふんばっている。グロテスクな怪物である。 写真は広目天にふまれている夜叉――ふまれているというより、むしろ、軽々とのせているとでもいった方がぴったりするくらい十分なボリュームがある。広目天の様式化はどこか手本に従ったかたさがあるが、夜叉の洋式化はいかにも自発的で、自由で、発らつとしている。
 一本彫りで頭、顔、腕、胴、腰、足と、見事な緊張感で面が結びつき、見るものを誘う。乙女さびた飛鳥仏をつくった人々はこんなぐあいに、人間の本能――暗いもの、分らぬものー―を悪びれず表現することを知っていたらしい。台座の雲とも岩とも思えるものの様式化も、思いがけぬほど新しく、見事である。
(美術評論家・明大助教授)

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